人の世がどんなに様変わりしようとも大自然の営みは変わることなく、今年も桜の季節がやってきました。もう少しで我が家の大島桜も開花を迎えそう。

毎年、満開時には道ゆく人々の足を止め、しばし愛でられるシーンにはオーナーとしても嬉しくなります。

たった一本の桜の木でさえ、辺りをパッと明るく照らし人の心を高揚させてくれるオーラは言うまでもなく、日中のみならず、夜桜の闇まに放つ何とも妖艶な美しさも、これまた見逃せない姿。。。遠い平安時代から、日本人としては桜を見なけりゃ始まらぬ、、、この季節ですが、実はこの文化が日本から輸出されていたのをご存知でしょうか・・・?

紀行作家で写真家、ナショナル・ジオグラフィック協会初の女性理事が1884年(明治17年)に来日した際、桜の美しさに魅了され、殺風景なワシントンのポトマック川沿いに日本の桜の植樹を提案しました。それを切っ掛けに、その後長い年月を経て、同様に日本の桜に魅了された植物学者や大統領夫妻、当時ニューヨーク在住の科学者、高峰譲吉博士の賛同や協力により、ようやく1909年に横浜港から2000本の桜を乗せた船がワシントンへ出航・・・ところが、到着した桜は病害虫に侵され、泣く泣く全てが焼却処分となりました。しかし、高峰博士は諦めずに綿密な計画を立てて再挑戦!1912年に横浜〜西海岸シアトル経由でワシントンに無事到着し、晴れて日本の桜が植樹されたというエピソードです。

夫の転勤で米国に滞在中、ワシントンを訪れた際に私はこの事を知り、日本人として何とも嬉しく誇らしくなったものです。しかも、それを教えてくれたのが、近所で親しくなったKathyという日本大好きの米国人女性から。

彼女は私より少し歳上で、我が家(当時在住のノースカロライナ州シャーロットの家)に来ると日本茶をリクエストするのが常でした。さらに、学生時代に覚えた「さくら〜さくら〜やよいの空は〜」をアメリカなまり?で歌ってくれて、彼女の日本愛が殊更に伝わりました。

日本の観光話で長崎、広島の話題になった時には、「Very sorry…My country was …」(本当に本当にごめんなさい。私の国がした事は、、、)と悲壮な顔で謝ってくれたその人情味溢れる優しさが忘れられずにいます。私が西海岸のカリフォルニアから移転してきてすぐに、同じ住宅地内で出逢って以来、私達は急速に親密度を増し、お互いにソウルメイトと思える程の間柄になりました。

米国人のようにジョークを言って笑わせるのは、何故か?いつも私の方で、誠実、謙虚、義理人情に篤く優しい性格で敬虔なクリスチャンとしての信仰を持つという、今どきの日本人より日本人らしい彼女でした。

現地の情報や文化を紹介し案内してくれたり、彼女の家族や友人との交流も深まり、週末やホリデーの家族ぐるみの会食はもちろん、長期の留守中はお互いの家の犬、猫の世話や植物の水やりを依頼する為に鍵を預けられる程の信頼関係も築いていきました。その恩返しとして、私が本帰国したら、家族共々の来日を大歓迎するプランも練っていたところ、、、何とその後、癌を発病し、長い闘病生活を続けることになるのです。

こんな素敵な女性に、どうして神様は過酷な試練をお与えになるのだろう…できる限りのサポートと心からの祈りと励ましを送るしかない中で彼女の運命を憂う私の心配をよそに、当の本人は一切の愚痴や不平を漏らすことなく、担当医、家族、友人に感謝し、いつも明るく前向きに神の計らいをあるがままに受け入れていました。その姿には、ぶれない信仰心の深さと美しさがありました。

私の本帰国が決まった頃、Kathyの体調の良い日に、年末のクリスマスを共に祝い、お互いに手作りのギフトとクリスマスカードを交換して幸せな時を過ごしました。その時渡してくれたカードには、「出逢えた奇跡を神様に感謝しています。思い出はどれも楽しく意味深かった。

絆は永遠だから、住む場所が違ってもどんなに離れていても私の心は 貴女の側にずっと居る。。。」と。何度読み返しても涙腺が壊れてしまうようなメッセージを胸に、年明けて後ろ髪を引かれる思いで、とうとう私は日本に帰国となりました。

「全ての出逢いとは別れの始まり…」という儚い現実を受け入れたくない気持ちを満杯にして、きっと奇跡の回復を果たしてくれる事を、元気で再会できる事を信じて日本で祈り続ける日々。。。しかし、その祈りは虚しく、帰国して迎えた久しぶりの日本の春、、、桜咲く4月に56歳という若さで天に召されました。

僅かな限られた時間であったからこそ!の濃厚な思い出と彼女の心美しい生き方が、凄まじい程の意味と感化を周囲にもたらしてくれた事に思いを馳せた時、「彼女は神様の遣わした天使だったに違いない!」という勝手な確信に辿り着き、Kathyを通して、神の計らいに喜んで従う事、全て起こる事には意味がある!の醍醐味を味わえたことに感謝です。

桜の花は、枯れ萎むことなく美しく咲きほこったままで潔く散っていく。。。桜のように美しいKathyの笑顔と魂は、満開のまま私の心の中に咲き続けてくれていて、今もなお私を励ましてくれているのです。(Hitomi)