日頃私は、目に映るものすべてが私の「心の窓」から見た景色であると思っています。

私の描いた絵は、私自身の心の鏡です。
自分の絵を見ると日常の心づかい、描いている時の心の状態を知ることができます。そして絵を描くことによって大自然からの感動をいただき、心を導かれています。

この絵は、上高地の有名な河童橋から穂高岳に向かう登山道沿いの万緑の林。

小鳥のさえずりが聞こえ、涼風が清々しく通り過ぎて行く。

行きかう人は、大きなリッュクを背負った人、外国の人、子供連れの人、皆笑顔で挨拶する。林は老木若木で成り立ち、多様な緑が一つの風景を造っている。

その一本一本の枝先、梢と一葉一葉の色の美しさとが見事に調和し、光と空気感が醸し出されている。
まさに林の中に照明が射した舞台のよう。

心と耳を澄まし無心になると、葉擦れの音、小鳥のさえずり、木々の緑に包まれて林と一体になる。
時が流れると、静寂の中に音も無く、姿も無いのに心に響きを感じる。

林の精霊・・・ 林の心?

こんなことを勝手に想像しながら、梓川の清流に清められ、万緑の林を二時間ほど歩くと徳沢のキャンプ場の広場にでる。その先に徳沢園という歴史ある山小屋がある。今日のトレッキングは終了。

ここは井上靖の小説「氷壁」の舞台となったところでもある。

初めて出会う人々、老若男女が笑顔で会話し、交流が始まる。お互いに今日一日を振り返り、晴雨かかわらず楽しく語り合い明日に向かってワクワクしながら床に就く。

一枚の絵を描くことによって、その時と場所、そして人々まで浮かびあがってきます。そして描く私の心の中に、「どんな心で描いているか?」と問いかけがあります。

さらに、自然から受けた深い感動と感謝の心で描いているかと…

この問いかけが、日常の私の暮らしの中でもいつも心に響いています。

お陰様で、大自然の心に感化され導かれて、素直な自分の姿(心)を知ってさらに心を清め、自然の心に近づけたいと念(おも)い日々を過ごしています。

絵を通してのお付き合いは、飾ることがないありのままの姿で語り合い、お互いの心を大切にし、思いやりの心で、話し合う仲間です。

これからも、美しい大自然から恩恵をいただき、より豊かな人生を送りたいと思っています。(田邊昭)