今回は日本有数の紅葉の名所、涸沢カールの紅葉の絵です。
3000m級の4座、北穂高岳(3106m)、涸沢岳(3110m)、奥穂高岳(3190m)、前穂高岳(3090m)に囲まれた氷河によって浸食形成されたカールと呼ばれるところです。
上高地から明神、徳沢を経て梓川清流に沿った林と道を交互に歩き、猿の歓迎を受け苔むしたビロードに輝く沢に清められながら3時間ほど歩くと横尾に着く。
横尾は槍ヶ岳と穂高に向かう分岐であり、横尾山荘がある。目の前には梓川に掛かる横尾大橋とその横には大きなイチョウの木が黄葉真っ盛りである。登山者はこのあたりで休憩する。ここには大きな掲示板があり、数日前までの遭難、事故などが書かれ注意を呼び掛けている。
横尾大橋を渡ると深い林となり本格的な登山道になる。
岩がゴロゴロした細い道やガレ場を3時間ほど歩くと北穂高岳の稜線が見え、涸沢のカールが目に入る。ナナカマドやカエデが真っ赤に紅葉して迎えてくれる。涸沢に到着すると向かって右から北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳の名峰がまるで円形劇場のようなカールを囲んでそびえ立つ。
ここには涸沢ヒュッテと涸沢小屋の2つの山小屋があり、涸沢小屋に宿泊した。小屋と小屋の間には多い時は700~1,000近くのテントが張られ、夜には色とりどりの灯が美しい。また山小屋は一枚の布団に二人が寝るという混雑ぶりである。
早朝、寒さが身に染みる中、外に出ると周囲の山は薄っすらと赤色に染まり始めた。刻々と眩しい色彩をまとって輝く峰々。見事なモルゲンロート(朝焼け)だ。神秘の自然の演出に言葉を失う。
朝食を済ませ小屋を出ると直ぐカエデやナナカマドに覆われた急登を進む。登山者は顔も衣服も赤く染められながら高揚し楽しく登る。しかし足元には大小の岩がゴロゴロとしていて気を許す事はできない。
高台に立ち振り返ると涸沢カールが眼下に広がり山小屋やテント場が小さく見える。登って来たんだなあ~と達成感を味わい勇気をもらう。
さらに歩きにくいザレ場を通り抜けるとザイテングラートという大きな岩床が積み重なった難所に出会う。ここはハシゴやクサリ場があり、下から見上げただけでは想像もつかない大変なところである。足元を見ると目がくらんで体が硬直する怖さである。
ここを登りきると穂高岳山荘である。眼下には見事に彩られた涸沢カール、そして右手には前穂高岳、左手に涸沢岳と北穂高岳がそびえる。正面奥には屏風岩、そのさらに奥には常念岳までも見える。
見上げれば空は一層高く、色は濃く紺碧に広がっている。3千メートル級4座に囲まれた得も言われぬ紅葉は、まさに神々が祭りをしているかのようである。私たちはその中に招待されたのである。
この素晴らしい大自然の前に立ち、常に感じる事ですが、感動、感激を与えてくれたすべての御縁に深く感謝しています。これが私が絵を描く動機になっているのです。(田邊昭)